宿泊施設の集客改善 — 経営診断の後、最初にやるべき3つのこと

━━ この記事の著者 ━━

島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援案件は延べ1万件超、補助金等の累計調達支援額は500億円。認定経営革新等支援機関。東日本大震災、令和元年台風、福島県沖地震などの復旧・再建局面でも、事業者の生活と事業継続を守る支援に取り組む。事業再構築補助金・中小企業成長加速化補助金の採択支援実績あり。

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「診断は終わった。さて、何から手を付ければいいのか」

経営診断を受けて、現状の課題が一覧になった。数字で可視化もされた。
でも、そこから先の「じゃあ何を変えるか」で手が止まってしまう——。

僕が宿泊施設の経営改善を支援していて、最もよく見かける光景です。

診断は現状を写す鏡です。しかし鏡を見ても、髪型は変わりません。診断結果を「改善計画」に落とし込み、具体的な行動に変えるフェーズこそが、経営改善の本番です。

この記事では、東北地方のある小規模宿泊施設で実際に取り組んだ「診断後の最初の3手」をご紹介します。OTA戦略の再設計、料理の差別化、そして「なぜお客様がうちを選んでいるのか」を直接聞くヒアリングの設計です。

この記事の結論

経営診断の後に最初にやるべきことは、①売上の太い動線を1つに絞って集中投資する、②記憶に残る「1品」を作る、③お客様に選択理由を直接聞く——この3つです。いずれも大きな投資は不要で、今すぐ始められます。

事例の前提:地方の小規模宿泊施設が直面していた状況

支援先は、東北地方の工業地域に立地する客室20室ほどの宿泊施設です。

主な宿泊客は工事関係者や出張ビジネスマン。かつては5〜6名の団体が電話で直接予約してくれていましたが、工事案件自体が減少し、最近は1〜2名の単発利用がOTA(楽天トラベル・じゃらん等)経由で入る構造に変わっていました。

経営診断フェーズで明らかになった数字は以下のとおりです。

項目 数値
予約チャネル構成 楽天70%、じゃらん20%、公式HP10%
OTA内の検索順位 2ページ目以降(広告未購入・写真課金なし)
年間宿泊人数 約2,000人
売れ筋価格帯 1泊朝食付き6,000〜7,000円
電話での新規予約 ほぼゼロ

つまり、この宿泊施設はすでにOTAの検索順位が低いのに、それでも予約が入っているという不思議な状態でした。

社長の認識:「価格で選ばれている」は本当か

僕が社長に「お客様はなぜうちを選んでいるのですか?」と聞いたとき、返ってきた答えは「料金ですかね」でした。

しかし、それは社長の主観です。実際に聞いたわけではありません。

さらに社長からは、過去にお客様から言われた「悲しい理由」も2つ出てきました。

  • 「あまり人がいないから静かでいいんだよね」
  • 「他のところがいっぱいだったから」

つまり、この宿泊施設が積極的に選ばれている理由が、経営者自身にも分からない状態だったのです。

これは珍しいことではありません。多くの宿泊施設で、「なぜ選ばれているか」「なぜ選ばれていないか」を直接お客様に聞いたことがないまま、推測で施策を打っている——という状況を僕は繰り返し見てきました。

第1の手:OTA戦略を「集中」させる

診断結果を見たとき、僕がまず提案したのは「チャネルの集中」でした。

楽天70%、じゃらん20%、公式HP10%という構成であれば、すでにお客様の動線が最も太いチャネル(楽天)を強化するのが最速です。

なぜ「まんべんなく」ではダメなのか

小規模宿泊施設の経営資源は限られています。楽天もじゃらんもbooking.comもExpediaも——と手を広げると、どのチャネルも中途半端になります。

広告予算、写真の追加課金、プラン設計、口コミへの返信。これらすべてを複数チャネルで並行管理するのは、20室規模の宿泊施設には現実的ではありません。

楽天集中で決めた3つのこと

  1. 楽天を最注力チャネルとし、成功報酬型クーポンを活用する: 楽天トラベルのトップページにある「クーポンで予約できる宿」のバナーから導線を取る施策です。成功報酬型なので、予約が入らなければ費用は発生しません
  2. じゃらん・booking.com等は同列の力加減に落とす: 完全に切るのではなく、メンテナンスの優先度を下げます。OTA管理代行業者を使っているため、楽天の変更がじゃらんにも自動反映される仕組みを活かします
  3. 公式HPの直接予約比率を10%→30%に引き上げる: OTA手数料がかからない「真水の売上」を増やします。ビジネスホテルでも3割程度までは伸ばせる余地があります

手数料構造を正確に把握する

OTA戦略を議論するとき、僕が必ず確認するのは手数料の全体像です。

項目 通常 クーポン追加時
OTAシステム利用料 8〜9% 8〜9%
ポイント負担金 1% 1%
管理代行業者 5% 5%
販売促進利用料 +3%
クーポン原資 +500円/件
合計 約15% 約18% + 500円/件

年間2,000人、平均単価6,500円で計算すると、クーポン込みの年間手数料は約200万円になります。「結構かかりますね」と同席した支援機関の担当者も驚いていました。

だからこそ、OTA販売価格にはこの手数料分を上乗せする必要があります。OTAで売るときは広告宣伝費込みの価格設定にしないと、売れれば売れるほど利益が削れる構造になってしまいます。

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第2の手:記憶に残る「1品」を作る

次に僕が提案したのは、料理の差別化です。

宿泊施設の食事について競合を調べたところ、エリア内の他施設のホームページには「お食事1例」「仕入れた食材の美味しさを引き出すように真心を込めた一品」といった抽象的な表現しかありませんでした。口コミを見ても「普通に快適でした」「特に問題なく過ごせました」——何も記憶に残っていない状態です。

「可もなく不可もなく」の恐ろしさ

宿泊施設にとって、「可もなく不可もなく」は最も危険な評価です。

なぜなら、次の予約時に「あの宿にまた泊まろう」という動機が発生しないからです。「どこでもいい」というお客様は、結局OTAの検索順位や価格で比較し、最安値の宿に流れます。

逆算の発想:口コミに書かれることを先に設計する

僕はこの宿泊施設に「口コミに何と書かれたいですか?」と問いかけました。

そこから逆算して、お客様が帰った後に思わず口コミに書きたくなる1品を設計するのです。

この施設の場合、社長と専務が調理師資格を持つオーナーシェフでした。高タンパク質で食べやすいメニューを、宿泊客の属性に合わせて自ら設計・提供できる——これは競合にはない強みです。

しかし、その強みがホームページにも口コミにも全く反映されていませんでした。OTA管理代行業者が作った一般的なテンプレートのまま、差別化の素材が埋もれていたのです。

実行したこと

  1. 地元食材を使った名物メニューを1品追加: 大きなコスト増にならない範囲で、地元の話題性がある料理を小皿形式で提供します。口コミに「ここに泊まるとあの料理が食べられる」と書かれることを目指します
  2. メニューの写真を意図的に撮影: OTA管理代行業者の来訪を待たず、社長自身が「高タンパク・食べやすい・中高生対応」というテーマで組んだメニューをディスプレイして先行撮影します
  3. ホームページの料理ページを改修: テンプレート的な表現を、この施設固有の調理哲学(オーナーシェフが客層に合わせてメニューを設計している事実)に書き換えます

写真は商品そのものです。良い写真が入れば、必ず結果は変わります。

第3の手:お客様に「なぜ選んだのか」を直接聞く

3つ目は、最もシンプルで最も見落とされがちな施策です。

チェックイン時に「ホテルを選んでくださった理由は何ですか? 価格ですか? 場所ですか?」と直接聞く。

たったこれだけのことを、多くの宿泊施設がやっていません。

推測で施策を打つ危険性

選択理由が分からないまま改善施策を打つと、こういうことが起こります。

  • 「価格で選ばれているはずだ」と思って値下げする → 実際は立地で選ばれていたので、値下げしても集客は増えず利益だけ減る
  • 「料理を豪華にすれば差別化できる」と思って食材コストを上げる → 実際はビジネス利用で料理への期待値が低く、コスト増が回収できない
  • 「広告を増やせばいい」と思って予算を投じる → 実際は特定の導線からの予約が大半で、広告は無駄撃ちになる

根拠のない施策は、正しかったとしても偶然です。間違っていた場合は、限られた経営資源を無駄にします。

ヒアリングの設計ポイント

  1. 聞く人を決める: この施設では、お客様と対面する専務が担当しました。フロントに立つ人が自然な形で聞くのが最も回答率が高くなります
  2. 選択肢を示す: 「なぜ選びましたか?」という漠然とした質問ではなく、「価格ですか? 場所ですか? 口コミですか?」と選択肢を提示します。選択肢があると回答しやすくなります
  3. 1ヶ月分のデータを貯めてから分析する: 1人2人の回答で判断しない。少なくとも30件程度のデータが貯まってから傾向を見ます

「悲しい理由」も貴重なデータ

「他のところがいっぱいだったから」——これは悲しい回答ですが、重要な情報です。

なぜなら、現時点では積極的に選ばれる理由がないことが分かるからです。それが分かれば、「自分たちで選ばれる理由を作ればいい」という次の戦略が見えます。

手持ちで評価される軸がないなら、自ら作る。それが改善計画の出発点です。

もし何もしなかったらどうなるか

この3つの施策を打たずに放置した場合、何が起きるでしょうか。

  1. OTAの検索順位はさらに下がる: 広告を買い、写真を追加し、クーポンを発行する競合が増える中で、何もしなければ相対的に沈みます
  2. 「可もなく不可もなく」の口コミが蓄積する: 記憶に残らない宿泊体験は、口コミの量も質も低いままです。口コミの少ない宿は、OTAの表示アルゴリズムでも不利になります
  3. 選択理由が不明なまま、推測で施策を打ち続ける: 当たりハズレの繰り返しで経営資源が消耗します。「やってみたけどダメだった」が積み重なると、社長自身が改善への意欲を失います

逆に、この3つを実行すれば——少なくとも根拠のある判断ができる状態には到達します。

まとめ:経営診断の後、最初にやるべき3つのこと

  1. OTA戦略を集中させる: すべてのチャネルに均等にリソースを割くのではなく、最も太い動線に集中投資する。手数料構造を正確に把握し、OTA価格には手数料分を上乗せする
  2. 記憶に残る「1品」を作る: 口コミに書かれたい言葉を先に設計し、そこから逆算してメニューを組む。写真撮影は管理代行業者の来訪を待たず先行する
  3. お客様に選択理由を直接聞く: 推測で施策を打つのをやめ、データに基づく改善に切り替える。「悲しい理由」も含めて全てが計画の材料になる

経営診断は出発点であり、ゴールではありません。診断結果を「行動」に変えるのは、こうした地道な1つ1つの積み重ねです。

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