━━ この記事の著者 ━━
島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援案件は延べ1万件超、補助金等の累計調達支援額は500億円。認定経営革新等支援機関。東日本大震災、令和元年台風、福島県沖地震などの復旧・再建局面でも、事業者の生活と事業継続を守る支援に取り組む。事業再構築補助金・中小企業成長加速化補助金の採択支援実績あり。
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「黒字なのに、なぜ潰れるのですか?」
先日、約40名の中小企業経営者を前にセミナーで資金繰りの話をしました。
冒頭でこの質問を投げかけたところ、受講者の1人が即座に答えてくれました。「手元に現金がなくて、支払いができないから」。
正解です。会社が「潰れる」とは、法律上の破産・清算だけを意味しません。営業できなくなった状態——つまりお金が枯渇した時点で、会社は実質的に終わります。
銀行通帳の預金残高を、RPGのヒットポイントに例えることがあります。あれが0になった瞬間に死にます。
ところが多くの経営者は、売上や利益は毎月チェックしているのに、来月末の預金残高を100万単位で試算したことがありません。「会社が死ぬのは現金がなくなった時なのに、その現金残高をないがしろにしている」——これが中小企業の財務管理の実態です。
この記事では、貸借対照表(BS)1枚から「なぜ手持ち現金がその金額なのか」を説明できる方法をご紹介します。
この記事の結論
損益計算書(PL)は利益を見る書類であり、現金の増減は見えません。現金がなぜその金額なのかを説明するには、貸借対照表(BS)を「組み替える」必要があります。この方法を使えば、BS1枚で「お金がどこから来て、どこに消えたか」が可視化できます。
利益とキャッシュは違う — この当たり前が見落とされる
「黒字なのになぜ潰れるのか」。この問いに対して、経営者の多くは「支払いのタイミングでお金がないから」と答えます。
では、なぜ利益が出ているのにお金がないのか。
答えはシンプルです。利益と現金は別物だからです。
利益は損益計算書(PL)に載っている数字ですが、以下のような理由で現金とはズレます。
| 利益が出ているのに現金が減る原因 | 具体例 |
|---|---|
| 売掛金の増加 | 売上は計上したが、お客様からの入金がまだ |
| 借入金の返済 | 利益から返済しているが、PLには反映されない |
| 設備投資 | 固定資産の購入は経費にならず、減価償却で少しずつ費用化 |
| 棚卸資産の増加 | 在庫が増えれば、仕入代金は出ているのに売上はまだ |
ある銀行員は僕にこう言いました。「JB5(当期純利益+減価償却)で返済原資を見るのは建前の話です。本当は、キャッシュベースでこの会社がちゃんと1年間で現金を増やしているかどうかで評価しています」。
つまり、PLで利益を語ることと、BSで現金を語ることは別の話です。
自己資本比率80%でも潰れる
「自己資本比率が高いから安心」——これもよくある誤解です。
セミナーでこんな問いかけをしました。
A社とB社、どちらも自己資本比率は80%です。しかしA社の手持ち現金は25万円、B社は5万円。どちらの経営体質が強いですか?
受講者全員が「A社」と答えました。理由は「現金があるから」。
自己資本比率は同じ80%なのに、手持ち現金は5倍の差があります。自己資本比率だけでは、会社の「体力」は測れないのです。
実例を挙げます。アパレル大手のレナウンが経営破綻した時の自己資本比率は約50%でした。上場企業で自己資本比率が50%もあっても、現金が枯渇すれば潰れます。
もちろん、中小企業として自己資本比率を高めていく努力は大事です。しかし、「上がったから安心」ということではありません。唯一の絶対的な安心材料は、手持ち現金だけです。
BS1枚で「現金の出所」を説明する方法
ここからが本題です。
貸借対照表の基本ルールを1つだけ押さえてください。左右の合計は必ず一致します。
- 右側(負債+純資産): お金の集め方。借入・出資・過去の利益の蓄積
- 左側(資産): そのお金が何に化けたか。現金・売掛金・在庫・設備
このルールを使って、現金の部分を「差額」として逆算していきます。
手順1:利益の蓄積を確認する
まず純資産の中の「利益剰余金」を見ます。これは会社が創業以来、蓄積してきた利益の合計です。
仮にこの数字が1,000万円だとします。もし他に何も変化がなければ、手持ち現金は1,000万円のはずです。しかし実際にはそうなっていない。どこかに消えているのです。
手順2:長期資金と投資のバランスを見る
次に、長期の資金調達(固定負債+資本金)と、長期の資金使途(固定資産+棚卸資産)を比べます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 固定負債+資本金(長期の調達) | 2,300万円 |
| 固定資産+棚卸資産(長期の使途) | 2,300万円 |
| 差額 | 0円 |
差額が0円ということは、長期的な資金調達と投資がちょうど釣り合っている状態です。ここからは現金の増減はありません。
手順3:取引の資金サイクルを見る
買掛金(仕入先への未払い)と売掛金(得意先からの未回収)を比べます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 買掛金(まだ払っていない仕入) | 200万円 |
| 売掛金(まだ回収していない売上) | 500万円 |
| 差額 | ▲300万円 |
差額がマイナス300万円——つまり、仕入先への支払いより先に得意先から回収できていないため、300万円分の現金が「吸い込まれている」状態です。
手順4:短期借入金を確認する
最後に短期借入金を見ます。中小企業の短期借入金は、基本的に借り換え(ロールオーバー)で維持し続けるお金です。金融機関からは「疑似資本」と呼ばれることもあります。
仮に短期借入金が300万円あれば、これは実質的に会社に入ったまま出ていかないお金です。
結果:現金の内訳が見える
| 要素 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 利益の蓄積 | +1,000万円 | 過去の利益が現金の基盤 |
| 長期資金の均衡 | 0円 | 投資と調達がバランス |
| 取引サイクルの資金吸収 | ▲300万円 | 売掛金が現金を吸い込んでいる |
| 短期借入金 | +300万円 | 疑似資本として現金を補填 |
| 合計(=手持ち現金) | 1,000万円 | BS上の現預金と一致 |
これで、なぜ手持ち現金がこの金額なのかを、4つの要素に分解して説明できます。
2期分を並べると「キャッシュフロー」が見える
この方法の真価は、2期分のBSを並べたときに発揮されます。
たとえば第1期の手持ち現金が1,000万円、第2期が400万円だったとします。利益剰余金は1,000万円から2,100万円に増えている。つまり1,100万円の利益が出ているのに、なぜか現金は600万円減っている。
第2期から第1期を引いて各要素の増減を出せば、「どこで現金が吸い込まれたか」が可視化されます。これは広い意味でのキャッシュフロー計算書です。
BS2枚でキャッシュフロー計算書ができる。 特別なツールも、複雑な計算式も要りません。
銀行員は駐車場で何を言っているか
僕はコンサルタントとして、銀行員と一緒にお客様の会社を訪問する機会が多くあります。
訪問先を出た後、駐車場で5分ほど立ち話をする時間があります。そこで銀行員が本音を漏らすことがあります。
「資金繰り表さえ作っていない会社だから、もうダメです」
表では「頑張ってください」と応援しているのに、裏ではそう言われている。資金繰り表を作っているかどうかが、金融機関からの信頼の分水嶺になっているのです。
資金繰り表を作る意味
資金繰り表は、来月・再来月の預金残高を予測するための道具です。
「来月末の残高を100万単位で30分以内に試算できますか?」——セミナーでこの質問をすると、ほとんどの経営者が「難しい」と答えます。
しかし、自社の命(=手持ち現金)がいつ尽きるかを把握していないまま経営するのは、ヒットポイントの残量を知らずにRPGのボス戦に挑むようなものです。
もしBSを「読まない」まま経営を続けたら
BSの組み替えも資金繰り表もやらずに、PLの利益だけで経営判断を続けた場合——。
- 利益が出ているのに資金ショートする: 売掛金の膨張や過大な設備投資に気づかないまま、支払い日に預金残高が足りなくなる
- 銀行からの信頼を失う: 「この社長は自社の財務を理解していない」と判断された瞬間、融資条件は厳しくなります
- 自己資本比率に安心して手を打たない: 指標上は健全に見えても、現金が減り続けていることに気づかない
利益は意見、キャッシュは現実。 どんなに高い夢を掲げても、志があっても、現金が枯渇したら元も子もありません。
まとめ:自社のBSでやるべき3つの確認
- 利益剰余金は増えているか: 創業以来の利益の蓄積が増えていれば、基本的な稼ぐ力はあります
- どこに現金が吸い込まれているか: 売掛金・棚卸資産・固定資産に資金が滞留していないか確認します
- 来月末の預金残高を試算できるか: 100万単位で構いません。これができなければ、まず資金繰り表を作ることから始めてください
決算書は過去の記録ですが、読み方を変えるだけで未来の判断材料になります。BSを「組み替える」方法を知れば、自社の本当の体力が見えるようになります。
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