企業物価+6.3%時代に値上げできる会社の共通点:価格転嫁と原価管理の実務

仕入れ値が上がったのに、売値をどこまで変えるべきか決めきれない。企業物価が前年比+6.3%まで上がった局面では、価格転嫁と原価管理を分けて考えるだけでは足りません。

価格改定を進められる会社は、単に「値上げをお願いしている」のではありません。商品別・サービス別に原価を把握し、「どのコストが、どれだけ、いつから上がったのか」を説明できる状態を作っています。

━━ この記事の著者 ━━

島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援案件は延べ1万件超、補助金等の累計調達支援額は500億円。認定経営革新等支援機関。東日本大震災、令和元年台風、福島県沖地震などの復旧・再建局面でも、事業者の生活と事業継続を守る支援に取り組む。事業再構築補助金・中小企業成長加速化補助金の採択支援実績あり。

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この記事の結論

企業物価+6.3%の時代に値上げできる会社は、価格転嫁の「お願い」より前に、原価管理の粒度を上げています。会社全体の原価率ではなく、商品・サービス別に粗利を見える化することが、交渉と経営判断の出発点です。

目次

  1. 企業物価+6.3%が中小企業に与える影響
  2. 価格転嫁できる会社は原価管理の粒度が違う
  3. 「原価を知っている」には3つのレベルがある
  4. 値上げしなかった場合に起きる利益圧迫
  5. 明日から始める3つの原価管理

企業物価+6.3%が中小企業に与える影響

2026年6月10日、日本銀行が企業物価指数の2026年5月速報を発表しました。国内企業物価指数は前年比+6.3%。4月の+5.3%からさらに1ポイント加速しています。

消費者物価指数が「お客様が払う値段」の動きだとすれば、企業物価指数は「事業者が払う仕入れ値」の動きです。つまり、企業物価の上昇は、仕入れ伝票や請求書の金額が上がっていることを意味します。

平均値だけでは自社への影響は見えません。類別で見ると、製造業・建設業・運送業・食品関連事業者にとって無視できない上昇が並んでいます。

類別 前年比 前月比 主な品目
非鉄金属+42.2%+3.4%銅、アルミニウム
スクラップ類+33.9%+2.7%銅・アルミ屑、鉄屑
石油・石炭製品+13.8%+3.0%ガソリン、軽油
化学製品+13.4%+2.3%ポリエチレン、ポリプロピレン
情報通信機器+13.1%+0.6%パソコン、記憶装置
農林水産物+10.1%-1.2%精米、豚肉
木材・木製品+5.0%+1.7%木材全般
飲食料品+4.1%+0.1%総菜、ビスケット類

出典: 日本銀行「企業物価指数 2026年5月速報」2026年6月10日公表

さらに、円ベースの輸入物価指数は前年比+25.5%です。原材料そのものの値上がりに円安の影響が重なるため、輸入原材料を扱う会社では、平均値以上の負担が起きている可能性があります。

価格転嫁できる会社は原価管理の粒度が違う

「大手の取引先が値上げを認めてくれない」「この業界では値上げできない」。こうした声は、経営支援の現場でもよく聞きます。もちろん、取引先との力関係は無視できません。

ただし、価格転嫁の成功率を原価の把握レベル別に見ると、別の構造も見えてきます。原価を細かく把握している会社ほど、値上げの根拠を説明しやすく、交渉の土台を作りやすいのです。

原価の把握レベル 75%以上転嫁できた 全く転嫁できなかった
製品・商品・サービス別に把握11.8%25.1%
事業単位で把握8.5%29.3%
全社単位で把握6.9%32.2%
ほとんど把握していない5.0%44.4%

出典: 経済産業省「小規模事業者の稼ぐ力 検討会 中間とりまとめ参考資料」令和8年5月。原データはデロイト トーマツ調査

「値上げできない」のではなく、値上げの根拠を持てていない。ここに、多くの中小企業が抱える構造的な課題があります。

「原価を知っている」には3つのレベルがある

会計事務所が作成する損益計算書を見て、「うちの原価率は65%だ」と把握している経営者は少なくありません。しかし、それは会社全体の平均値です。どの商品が利益を生み、どの商品が利益を削っているのかまでは見えません。

レベル1: 全社単位の原価

損益計算書で会社全体の原価率を把握する段階です。ただし、在庫の棚卸しが曖昧だと原価率そのものも粗くなります。

レベル2: 事業単位の原価

製造部門、サービス部門、物販部門など、事業ごとに売上と原価を分けて見る段階です。全社平均より判断材料は増えますが、商品別の値上げ判断にはまだ粗さが残ります。

レベル3: 製品・商品・サービス別の原価

「商品Aは仕入れ値が1年で12%上がり、粗利率が15%まで落ちている」と説明できる段階です。ここまで見えると、価格改定の対象と改定幅を具体的に判断できます。

価格転嫁は感情論では進みません。取引先やお客様に対して、数字で根拠を示せるかどうかが大切です。

値上げしなかった場合に起きる利益圧迫

「値上げはお客様に申し訳ない」という感覚は自然です。ただ、中小企業の利益は想像以上に薄く、仕入れコストと借入コストが同時に上がると、手元に残る利益は急速に削られます。

項目 中小企業 大企業
人件費大部分大部分
支払利息等一定割合少ない
動産・不動産賃借料一定割合一定割合
租税公課一定割合一定割合
営業純益8.3%34.3%

出典: 財務省「法人企業統計調査年報」。中小企業=資本金1億円未満、大企業=資本金10億円以上

中小企業の付加価値に占める営業純益は8.3%。この薄い利益の中で、企業物価+6.3%のコスト増を吸収し続けるのは簡単ではありません。

さらに、日本銀行の「貸出約定平均金利の推移」によると、国内銀行の新規貸出金利は2025年11月の1.139%から、2026年4月には1.686%へ上昇しています。既存借入の平均金利も1.164%から1.343%へ上がっています。

仕入れコストの上昇と、借入コストの上昇。この2つに同時に挟まれると、営業純益8.3%の余裕はすぐに失われます。だからこそ、値上げは単なる売上施策ではなく、雇用と品質を守るための経営判断です。

明日から始める3つの原価管理

大がかりな原価計算システムを入れる前に、まずは主力商品・主力サービスから数字を見える化します。

1. 主力商品の仕入れ値推移を3カ月分並べる

売上上位3〜5品目について、過去3カ月の仕入れ単価を表にします。「なんとなく上がっている」ではなく、「3カ月で何%上がった」と説明できる形にします。

商品 3月仕入れ単価 4月 5月 上昇率
商品A○円○円○円○%
商品B○円○円○円○%
商品C○円○円○円○%

2. 粗利率を商品別に算出する

まずは「売価 – 仕入れ値 = 粗利」を主力商品ごとに出します。商品Aは粗利率40%、商品Bは粗利率10%というように見える化すると、値上げすべき商品、廃止を検討すべき商品、売り方を変える商品が分かれます。

3. 公的データを価格改定の説明に使う

「日本銀行が公表した企業物価指数は前年比+6.3%です」という一文は、個人の感想ではなく、公的データに基づく説明です。価格改定の通知文や取引先説明では、こうした外部データと自社の原価上昇をセットで示します。

まとめ: 原価を説明できる会社から価格転嫁は進む

企業物価+6.3%、輸入物価+25.5%、借入金利の上昇。これらが同時に起きる局面では、値上げを先送りするほど利益の余裕は削られます。

ただし、価格転嫁は「お願い」だけでは進みません。商品・サービス別の原価を把握し、数字で説明できる状態を作ること。そこから、取引先との交渉も、社内の撤退判断も、次の投資判断も始まります。

値上げは、お客様との関係を壊すためのものではありません。商品やサービスの質を守り、従業員の雇用を守り、事業を次の世代へつなぐための責任ある経営判断です。

原価構造や価格改定でお悩みの方へ

認定経営革新等支援機関として、原価の見える化、価格改定の進め方、資金繰り改善までご相談に応じます。

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