中小企業が値上げすべき3つの判断基準と進め方

中小企業の値上げは怖がるものではなく数字で判断するもの。値上げの定義、10年に1度の危機への備え、限界利益額での判断基準と、実務の進め方を解説します。

この記事の結論

値上げは感覚で決めるものではなく、限界利益額と必要販売数量を見ながら進める経営判断です。

ポイント 1

値上げは気合いではなく数字で判断する

ポイント 2

限界利益額で、値上げ後の必要販売数量を見る

ポイント 3

10年に1度の危機に備え、価格の見直しを経営課題にする

━━ この記事の著者 ━━

島田慶資(しまだ けいすけ)
ハンズバリュー株式会社 代表取締役。認定経営革新等支援機関。温泉旅館・宿泊施設を中心に、中小企業の経営改善を年間100件以上支援。資金繰り改善、バンクミーティング対策、事業計画策定が専門。

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「値上げしたいが、お客様が離れるのが怖い」
「原材料費は上がっているのに、価格に転嫁できていない」

経営改善の相談で、値上げの話題は避けて通れません。しかし、多くの経営者が値上げの判断を先送りにしています。

結論から申し上げると、値上げは怖がるものではなく、数字で判断するものです。この記事では、値上げの前提となる考え方と、判断基準、進め方を解説します。

要点: 値上げとは、サービスも品質も数量も同じまま純粋に価格だけを上げること。10年に1度の経済危機を乗り越えるキャッシュは利益からしか生まれない。利益「率」ではなく「額」で判断し、値上げをしないリスクを直視する。

まず前提を揃える:「値上げ」とは何か

経営者の方から「値上げと同時に何か付加サービスを追加したほうがよいでしょうか」と相談されることがよくあります。

しかし、付加サービスを追加して価格を上げるのは「商品やサービスの改訂」であり、値上げとは別の話です。サービスを追加すれば従業員の負荷が増え、残業代が増え、値上げした分以上に人件費がかかっては元も子もありません。

ここで言う値上げとは、やっていることも、サービスの品質も、数量もすべて同じ状態で、純粋に価格だけを上げることです。この前提がずれると、ビジネスモデルそのものから考え直す必要が出てきてしまいます。

「そんな都合のいい値上げができるわけない」と思われるかもしれません。しかし、人件費が高騰し、エネルギーコストが上がり、世界情勢が不安定な方向に進んでいる今、純粋な値上げで利益を確保していくことは避けられない経営課題です。

なぜ値上げが「必要条件」なのか

10年に1度、必ず危機が来る

振り返ってみてください。アメリカ同時多発テロ、ITバブル崩壊、リーマンショック、新型インフルエンザ、東日本大震災、そして新型コロナウイルスの感染症拡大。10年、あるいはそれよりも短いスパンで、経済に深刻な打撃を与える出来事が繰り返し起きています。

当社の経営指針書にはこう記しています。「10年おきに天変地異やそれに匹敵する人災が起こる。新型コロナウイルス感染症拡大時の需要消失を、我々は絶対に忘れない」と。

こうした危機を乗り越えるために圧倒的に必要なのはキャッシュ(現金)です。キャッシュは利益からしか生まれません。利益を確実に積み上げていくことが、会社が存続するための絶対条件です。

中小企業の経常利益率5%に根拠はない

「中小企業の経常利益率は5%前後」とよく言われますが、これに根拠はありません。

大企業は良い品質のものを大量生産し、薄い利益率でも絶対額で利益を確保できます。大企業は10%で大成功です。しかし、我々中小企業は売上の絶対額が小さい。少しの外部環境の変化――消費税増税、取引先の切り替え、天候不順――で売上が敏感に減ってしまいます。

だからこそ、中小企業が目指すべき経常利益率は最低10%、可能であれば30%以上です。この水準でなければ、従業員に還元することも、地域に貢献し続けることも難しいのが現実です。

通常時に確実に利益を積み重ねて、何があっても生き残れる会社であり続ける。値上げの必要性は、ここにあります。

価格とは「力関係」である

値上げの判断に入る前に、もう1つ大切な前提があります。

価格とは、お客様と自社の力関係を表すものです。原価を積み上げた結果が価格ではありません。自社の商品やサービスの品質を表現するものでもあります。

「うちには価格決定権なんてない」とおっしゃる経営者は多いです。しかし、そもそも価格決定権を持とうと思わなければ、この議論は進みません。

今は価格決定権がなくても構いません。「何年後までに、どの商品で、自社が価格を決められるようにするか」という目標がなければ、一生値段に悩まされ続けることになります。

値上げの判断基準1:限界利益の「額」で見る

利益率が高いことと、経営が安定していることはイコールではありません。

数量と単価の掛け算が売上であり、1個あたりの限界利益と数量の掛け算が限界利益の絶対額です。この限界利益の絶対額が、固定費と返済額を超えているかどうかが、会社の生存条件です。

たとえば、限界利益率30%で年商1,000万円の事業と、限界利益率10%で年商1億円の事業。限界利益額はそれぞれ300万円と1,000万円です。固定費が600万円であれば、利益率30%の事業は赤字、利益率10%の事業は黒字です。

さらに、この固定費に加えて従業員の昇給、設備投資、将来への備えも限界利益から捻出しなければなりません。

値上げを検討すべき最初の判断基準は、「現在の限界利益額で固定費+返済+将来投資をまかなえているか」です。まかなえていないなら、値上げは選択肢ではなく必要条件です。

値上げの判断基準2:相場からかけ離れていないか

商品やサービスには相場があります。そして、相場には引力があります。

極端に安売りしていても、お客様はそれなりの金額を払ってくれることが多いのです。逆に、相場より高くても品質が伴っていれば購入されます。

つまり、相場の範囲内であれば、値上げしても大幅な顧客離れは起きにくいのが実態です。

まず自社の商品・サービスの相場を調べてみてください。相場より安い価格で提供しているなら、相場水準まで引き上げる余地があります。

相場の調べ方

  • 同業他社のWebサイトで料金を確認する
  • 業界団体や商工会議所が公表しているデータを参照する
  • 取引先の金融機関に同業の状況を聞く
  • お客様に直接「この価格をどう感じるか」を聞く

値上げの判断基準3:商品の価値を伝えているか

値上げの前に確認すべきことがあります。「そもそも商品の価値をきちんと伝えているか」です。

商品の良さを伝えていなければ、お客様は最もわかりやすい判断基準――つまり価格――で比較します。価格競争に陥る原因は、価格が高いからではなく、価値の違いが見えないからです。

「自社商品が高い理由」を説明するのは間違いです。お客様が関心を持っていること、お客様にとっての価値を伝えるべきです。

販促物やWebサイトの文章を、自社目線ではなく顧客目線で見直してみてください。仕事から離れた家族や友人に見せて、「価値を感じるか」を率直に聞いてみるのも効果的です。

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値上げの進め方:実務の3ステップ

ステップ1:値上げ幅のシミュレーション

変動損益計算書を使い、値上げ幅ごとの限界利益と経営安全率を計算します。

たとえば、宿泊単価を1,000円上げた場合、月間稼働率が仮に5%下がっても限界利益が増えるか。この計算をしないまま「怖いから値上げしない」は、数字に基づかない判断です。

支援の現場では、5%から10%の値上げで顧客数の減少が限定的だったケースも多く見られます。ただし、商品やサービスの性質によって反応は異なるため、必ず商品別に検証してから判断してください。とくにリピーターの多い事業では、値段よりもサービスの質と人間関係で選ばれている場合が多いです。

BtoB取引の場合は記録を残す

法人向けの値上げでは、価格転嫁の根拠資料と交渉記録を残すことが重要です。原材料費やエネルギーコストの上昇データを提示し、取引先に理解を求める形で進めてください。経済産業省の価格交渉促進月間の取り組みなど、公的な後押しも活用できます。

ステップ2:新規顧客から適用する

全顧客を一斉に値上げすると心理的なハードルが高くなります。まず新規のお客様から新価格を適用し、既存のお客様には3か月から6か月の猶予を設ける方法があります。

旅館であれば、新しい宿泊プランを新価格で作成し、旧プランは段階的に終了させるのがスムーズです。

ステップ3:値上げ後の経過を記録する

値上げ後3か月間は、以下を毎月記録してください。

  • 新規問い合わせ数の変化
  • 既存顧客のリピート率の変化
  • 客単価の変化
  • クレームや解約の件数

データがあれば、次の値上げ判断がさらに精度高くおこなえます。データがなければ「怖いからやめよう」の繰り返しになります。

「値上げしないリスク」を直視する

値上げにはリスクがあります。しかし、値上げしないリスクのほうが大きいことが多いのです。

値上げは経営者の仕事です。お客様に選ばれ続けるための投資原資を確保する、前向きな経営判断です。

まとめ

  • 利益「率」ではなく「額」で判断する。固定費+返済+投資をまかなえているかが基準
  • 相場の範囲内なら、顧客離れは起きにくい。まず相場を調べる
  • 商品の価値を伝えていなければ、価格競争に巻き込まれる。値上げの前に訴求を見直す
  • 変動損益計算書で値上げシミュレーションをおこない、数字で判断する
  • 値上げの前に自社商品の利益貢献度を確認するなら商品の6分類分析が有効

旅館・宿泊施設の経営改善支援の詳細は経営改善サポートをご覧ください。

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まとめ

値上げは怖い判断ですが、数字に分解すれば検討すべきポイントが見えてきます。売上だけでなく、限界利益額と必要販売数量を確認しながら、持続できる価格を設計しましょう。

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