事業撤退の判断基準:赤字部門をすぐ切らずソフトランディングする方法

赤字部門を見たとき、経営者は「この部門をやめれば、会社全体の赤字も減る」と考えがちです。

しかし、事業撤退の判断基準は「その部門が赤字かどうか」だけでは決められません。大切なのは、その部門をやめたときに消える利益と、やめても残る費用を分けて見ることです。

「赤字部門だから、すぐ切る」。一見合理的に見えるこの判断には落とし穴があります。赤字に見える部門でも、会社全体を支えている利益を残していることがあるからです。

━━ この記事の著者 ━━

島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援案件は延べ1万件超、補助金等の累計調達支援額は500億円。認定経営革新等支援機関。東日本大震災、令和元年台風、福島県沖地震などの復旧・再建局面でも、事業者の生活と事業継続を守る支援に取り組む。事業再構築補助金・中小企業成長加速化補助金の採択支援実績あり。

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この記事の結論

撤退判断は、部門別の変動損益計算書で「部門の限界利益」と「部門の貢献利益」を確認してから行います。

1. 部門の売上 – 部門の変動費 = 部門の限界利益

2. 部門の限界利益 – その部門だけにかかる固定費 = 部門の貢献利益

部門の貢献利益がプラスなら、その部門は会社全体の固定費を支えています。配賦後の部門損益で赤字に見えても、すぐに撤退すべきとは限りません。

事例の前提:3部門のビジネスモデル

具体例で見ていきます。今回取り上げるのは、精肉・食品加工を扱う事業者です。ギフト販売、加工受託、飲食の3部門があり、各部門の年商はおおむね1,000万円、会社全体では約3,000万円の売上があります。

ここで重要なのは、3部門のビジネスモデルが違うことです。特に加工受託部門には特殊な構造があります。ここを押さえないと、後の数字が腹落ちしません。

部門 事業内容 原材料の負担 コスト構造の特徴
ギフト販売 自社で仕入・加工した商品をギフトとして販売 自社で仕入 原材料費が部門の売上に連動して発生
加工受託 取引先から原材料の支給を受け、加工して納品 取引先が支給 原材料費がほぼ発生しない。加工に関わる人件費が中心
飲食 自社店舗での飲食提供 自社で仕入 原材料費と店舗運営費が発生

加工受託部門の前提

取引先から原材料の支給を受けるため、自社側で仕入がほとんど発生しません。売上は加工賃として受け取る構造なので、部門の売上に連動する費用、つまり部門の変動費がほぼゼロになります。

社長はなぜ「加工受託は赤字」と考えたのか

社長は、加工受託部門について「人件費が重く、赤字になっている」と考えていました。加工受託は人の手が必要な仕事です。加工する人員、検品する人員、段取りを組む人員が必要です。

さらに、会社全体でかかっている本社家賃、管理部門の人件費、社長や経理の人件費などを各部門に割り振ると、加工受託部門は赤字に見えます。

項目 加工受託部門
部門の売上 1,000万円
その部門の人件費 800万円
共通固定費の按分(本社家賃・管理人件費など) 300万円
按分後の部門損益 ▲100万円

部門の売上1,000万円 – その部門の人件費800万円 – 按分された共通固定費300万円 = ▲100万円

この表だけを見ると、「加工受託部門をやめれば、100万円の赤字がなくなる」と見えてしまいます。

しかし、ここに撤退判断の落とし穴があります。按分された共通固定費300万円は、加工受託部門をやめてもすぐには消えません。本社家賃、管理部門の人件費、社長や経理の人件費などは、部門をひとつ閉じても会社に残ります。

部門別の変動損益計算書で見直す

そこで必要になるのが、部門別の変動損益計算書です。名前は難しく聞こえますが、見るのは2つの引き算だけです。

引き算 1:部門の限界利益を見る

まず、部門の売上から、その部門の変動費を引きます。変動費とは、売上に連動して増減する費用です。原材料費、外注加工費、販売手数料などが代表例です。

加工受託部門の場合、先ほど確認したとおり、原材料は取引先が支給するため、部門の変動費はほぼゼロです。

計算 加工受託部門
部門の売上 1,000万円
部門の変動費 0円
部門の限界利益 1,000万円
限界利益率 100%

限界利益とは、部門の売上から変動費を引いたあとに残る利益です。この利益が、その部門の人件費、設備費、家賃、本社費などの固定費を支える原資になります。

引き算 2:部門の貢献利益を見る

次に、部門の限界利益から、その部門だけにかかる固定費を引きます。今回の加工受託部門では、専属人員の人件費が中心です。

計算 加工受託部門
部門の限界利益 1,000万円
その部門だけにかかる固定費(人件費) 800万円
部門の貢献利益 200万円

この最後に残った200万円が、会社全体の共通固定費を支えるお金です。会計用語では、これを貢献利益と呼びます。

按分後の部門損益では▲100万円の赤字に見えていた部門が、実際には会社全体の共通固定費を200万円分支えていたということになります。なお、「その部門だけにかかる固定費」は会計上、直接固定費と呼びます。

同じ部門が赤字にも黒字にも見える理由

ここで大切なのは、「どの数字を見ているのか」を分けることです。

見方 計算 加工受託部門の見え方
共通固定費を按分した部門損益 部門の売上1,000万円 – 人件費800万円 – 按分300万円 ▲100万円の赤字に見える
部門別の変動損益計算書 部門の売上1,000万円 – 変動費0円 – 直接固定費800万円 200万円が会社全体に残る

どちらの表も間違いではありません。会社全体の利益を見るためには、共通固定費を配賦した損益も必要です。

ただし、撤退判断に使う順番を間違えると、会社を支えている部門を切ってしまいます。按分後の赤字は「会社全体の固定費を各部門に割り振った後の見え方」です。一方で、貢献利益は「その部門を続けることで、会社全体にどれだけお金が残るか」を表します。

すぐ撤退すると何が起きるか

仮に加工受託部門を急に撤退すると、何が起きるかを足し引きで見てみます。

項目 撤退による影響
消える売上 1,000万円
消える変動費 0円
消える限界利益 1,000万円
消える直接固定費(人員を解雇できた場合) 800万円
消える貢献利益 200万円
残る共通固定費(本社家賃・管理人件費など) そのまま残る

会社全体では200万円分、利益が減ることになります。

「▲100万円の赤字部門をやめたのに、なぜ会社全体が苦しくなるのか」と感じるかもしれません。理由は、▲100万円の赤字に見えていた原因の中に、撤退しても消えない共通固定費が含まれていたからです。

しかも、人員をすぐに他部門で活用できなければ、人件費800万円も完全には消えません。実際の影響はさらに大きくなる可能性があります。

撤退を検討すべき状態とは

撤退を検討すべきなのは、按分後に赤字に見えるときではありません。貢献利益がマイナスの状態です。

状態 計算で見ると 判断
貢献利益がプラス 部門の限界利益 – 直接固定費 > 0 すぐ撤退しない。価格改定・効率化・受け皿づくりを先に検討
貢献利益がほぼゼロ 部門の限界利益 – 直接固定費 ≒ 0 値上げ・商品構成・受注条件・人員配置を見直す
貢献利益がマイナス 部門の限界利益 – 直接固定費 < 0 撤退・縮小・大幅な条件変更を優先して検討

特に、限界利益は出ていても直接固定費を賄えていない場合は注意が必要です。続けるほど会社全体の資金繰りを圧迫します。

今回の事例では、加工受託部門は200万円の貢献利益を残していました。そのため、すぐ撤退するのではなく、価格改定、受注条件の見直し、人員配置の最適化を先に検討すべき状態です。

撤退前に作るべき「受け皿」

貢献利益が残っている部門を撤退する場合は、必ず受け皿を作る必要があります。撤退とは、単に売上をやめることではありません。人、建物、設備、固定費の行き先を決め直すことです。

受け皿 1

従業員の配置転換

他部門で同じ人件費を賄えるだけの売上と利益を作れるかを確認します。

受け皿 2

建物・設備の活用

撤退後も家賃、減価償却、リース料が残るなら、そのスペースや設備を別の売上に使えるかを見ます。

受け皿 3

代わりの限界利益

今回の事例なら、最低でも貢献利益分の200万円を別の手段で確保する見通しが必要です。

ソフトランディング撤退の進め方

それでも撤退が必要な場合は、いきなり切るのではなく、会社全体の利益と雇用への影響を抑えながら段階的に進めます。

  1. 部門別の変動損益計算書を作る。 部門ごとに、売上、変動費、限界利益を確認します。
  2. 直接固定費を整理する。 その部門だけにかかる人件費、設備費、専用スペースの費用を分けます。
  3. 貢献利益を確認する。 直接固定費を賄ったあとに、会社全体へいくら貢献しているかを見ます。
  4. 受け皿を作る。 従業員、建物、設備、代わりの利益の行き先を決めます。
  5. 縮小・価格改定・受注制限から試す。 全面撤退の前に、損失を抑える小さな打ち手を入れます。
  6. 撤退条件と期限を数字で決める。 どの水準まで改善しなければ撤退するのか、いつ判断するのかを決めます。

撤退の目的は、赤字部門を罰することではありません。会社全体の利益と資金繰りを守るために、やめ方を設計することです。

まとめ

  • 撤退判断は、配賦後の赤字だけで決めない。
  • 部門の売上から部門の変動費を引き、部門の限界利益を見る。
  • 部門の限界利益から直接固定費を引き、部門の貢献利益を見る。
  • 貢献利益がプラスの部門は、会社全体を支えている。
  • 撤退する場合は、人・建物・設備・代わりの利益の受け皿を作ってから進める。

今回の事例では、加工受託部門は配賦後に▲100万円の赤字に見えていました。しかし、原材料が取引先支給のため変動費がほぼゼロという構造があり、部門の売上1,000万円から直接固定費である人件費800万円を引くと、200万円の貢献利益が残っていました。

この200万円が残っている限り、その部門は会社全体を支えています。急に撤退すると、貢献利益だけが消え、共通固定費は残り、会社全体の赤字が広がる可能性があります。

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ハンズバリュー株式会社では、部門別の変動損益計算書、資金繰り、人員配置を整理し、撤退・縮小・再建の判断を支援しています。感覚ではなく、数字にもとづいて次の一手を一緒に検討します。

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