旅館の事業計画の作り方|金融機関も納得する5つのステップ

旅館の事業計画の作り方|金融機関も納得する5つのステップ

旅館の事業計画を金融機関から求められたとき、何から手を付ければよいか分からない。そんな温泉旅館の経営者は少なくありません。

事業計画と聞くと、分厚い資料を想像するかもしれません。しかし、旅館の事業計画に必要なのは、難しい理論ではありません。自分の旅館の「現在地」を正確に把握し、「どこへ向かうか」を言葉と数字で示すことです。

この記事では、東北6県で300件超の宿泊業支援を行うなかで、実際に使っている事業計画の作り方を、5つのステップで解説します。設備投資ゼロでできることから始める、現実的な方法です。

━━ この記事の著者 ━━
島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援先は300件超。認定経営革新等支援機関。ニッキンオンラインにて金融機関向け連載を執筆中。
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要点: 旅館の事業計画は「決算書を読む → 強みを言語化する → コストの実態を把握する → 設備投資ゼロの施策から着手する → 金融機関に見せる形に整える」の5ステップで作れます。

Step 1: 決算書3期分を並べて「現在地」を知る

事業計画を作る前に、まず自分の旅館がどこにいるのかを確認します。

用意するものは、過去3年分の決算書(または試算表)です。3期分を並べる理由は、単年度では季節変動やコロナ等の一時的要因に振り回されるからです。3年の推移を見れば、上り坂なのか下り坂なのか、構造的な問題なのか一時的な問題なのかが見えてきます。

見るべき数字は4つ

項目 見方
月別売上の推移 どの月が稼ぎ時か。3年分を並べて、トップシーズンとオフシーズンの差を確認する
料理原価率 料理・飲料原価が料飲売上に対して何%か。旅館の場合、概ね20%前後が標準ですが、棚卸しをしていない旅館ではこの数字自体が不正確な場合があります
人件費率 売上に対する人件費の割合。旅館は固定費比率が高い業種のため、ここが重い
借入金の返済スケジュール 毎月いくら返済しているか。返済原資(営業利益+減価償却費)を稼げているかを確認する

ある東北の温泉旅館を支援したとき、決算書を3期分並べてまず確認したのは月別売上の推移でした。秋がトップシーズンで、その稼ぎを冬の運転資金に回す構造。前年比で10月〜11月に約400万円の落ち込みがあり、原因を特定する必要がありました。

決算書を並べるだけで「何が起きているか」が見える。この作業をしないまま、いきなり「売上を上げましょう」と言っても、どこを動かせばいいか分かりません。

決算書の読み方がわからない、どこを見ればいいか判断できないという方へ

ハンズバリューでは、認定経営革新等支援機関として、決算書の読み解きから事業計画の策定までワンストップで支援しています。初回無料でご相談いただけます。


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Step 2: 強みを40個書き出す ― 新しいことより「既にあるもの」

多くの経営者が事業計画を考えるとき、「何か新しいことをしなければ」と思い込みます。新しいサービス、新しい設備、新しいターゲット。

しかし、私の経験では、旅館の事業計画で最も効果的なのは「既にある強みを可視化すること」です。

ある旅館を支援した際、社長と一緒に「うちの旅館の良いところ」を書き出すワークをしました。最初は5個くらいで手が止まりますが、「お客様から言われたこと」「リピーターが評価しているポイント」「競合にはないこと」と切り口を変えていくと、40個近く出てきました。

たとえば:

  • 調理長が食事のアレルギー対応に柔軟に対応できる
  • 大型車両も停められる広い駐車場がある
  • インターチェンジから車で5分の立地
  • 2棟構成で客層を分けて配置できる

これらは設備投資ゼロで訴求できる強みです。問題は、強みがあるのに、お客様に伝わっていないことです。ホームページにも、OTA(じゃらん・楽天トラベル等)の掲載ページにも書かれていない。

事業計画の第二歩は、新しい強みを「作る」のではなく、既にある強みを「見つけて伝える」ことです。

強みの棚卸しチェックリスト

切り口 質問
食事 お客様から「おいしい」と言われる料理は何か。アレルギー対応はできるか。朝食の提供時間は何時からか
立地・アクセス 最寄りインターから何分か。駐車場は何台分か。大型車両は入れるか
設備 大浴場はあるか。Wi-Fiの速度は。会議室やホワイトボードはあるか
調理長のこだわりは何か。仲居さんの接客で評価されていることは
実績 リピート率は。スポーツ合宿、企業研修など団体の受入実績は
口コミ OTAの口コミで高評価のポイントはどこか。低評価のポイントは改善可能か

Step 3: コスト構造を分解する ― 「20%」を鵜呑みにしない

事業計画で利益改善を語るなら、売上を上げる話だけでは不十分です。コスト構造の実態を把握しなければなりません。

料理原価は、温泉旅館の利益を左右する主要な変動費の一つです。多くの旅館で料飲売上の概ね20%程度に収束します。しかし、この20%という数字には落とし穴があります。

多くの旅館では棚卸しが実施されておらず、買った食材はその月にすべて使い切った前提で経費計上されています。お醤油やみりん、冷凍食品、瓶ビールなど、数か月単位で残る在庫も購入時に経費化されている。つまり、月によっては実態よりかなり高くも低くもぶれています。

正確な売上原価が分からなければ、月次の営業利益判断がぶれ、改善施策の効果が見えにくくなります。不正確な数字を前提に経営改善の議論をしていることになります。

コスト分解のポイント

費目 確認すべきこと
料理原価 棚卸しをしているか。経営者のご家庭の食費が紛れ込んでいないか
人件費 固定人件費とパート人件費の比率。休館日の設定で調整可能か
OTA手数料 じゃらん・楽天等の手数料率は合計何%か。公式サイト経由とのコスト差
光熱費・燃料代 変動費か固定費か。1泊あたりに按分するといくらか
外注費 コンサルタント費用、清掃外注、リネン等の見直し余地

事業計画に「売上を5%上げます」と書くだけでは、金融機関は納得しません。「料理原価率を2ポイント改善して年間200万円の利益を創出します。方法は、毎週の棚卸し導入と、予約情報の調理場との共有です」と書けば、実現性が伝わります。

私がニッキンオンラインの連載で金融機関の担当者に伝えていることでもありますが、試算表の数字の裏側にある「社内の会話の質」を見ることが、旅館の経営改善の本質です。

資金繰りの数字をもっと深く理解したい方は、資金別貸借対照表の読み方も参考にしてください。

Step 4: 設備投資ゼロでできることから着手する

旅館の事業計画で失敗するパターンの一つは、「設備投資ありき」の計画です。「露天風呂を作れば客が来る」「客室をリノベーションすれば単価が上がる」。確かにそうかもしれませんが、数千万円の投資を回収できる根拠がなければ、金融機関は首を縦に振りません。

私が支援先に最初に提案するのは、設備投資ゼロで効果が出る施策です。

設備投資ゼロの施策例

施策 効果 コスト
お品書きの改善 料理の価値を言葉で伝える。「地元の○○産」「朝採れ」等を明記するだけで、同じ料理でも満足度が上がる 印刷代のみ
飲み比べプラン 地酒3種を小グラスで提供。原価は数百円だが、客単価が1,000〜2,000円上がる。旅館で導入しやすい定番の客単価向上施策 酒器の用意のみ
OTA写真の撮り直し 料理・客室・ロビーの写真を、スマートフォンでもいいので「強みが伝わる」構図で撮り直す ゼロ
公式ホームページの料金適正化 OTA価格から逆算して安くするのではなく、公式サイトを正規料金とし、OTAに手数料を上乗せする ゼロ
板長との週次ミーティング 予約情報を共有し、仕入れの無駄と廃棄を削減する。料理原価率を1〜2ポイント改善できる可能性がある ゼロ

これらの施策は、いずれも「今ある資源」を使うだけです。新たな借入も、工事の手配も必要ありません。だからこそ、事業計画の「第一フェーズ」として金融機関に見せたとき、「まずこれを実行して成果を出す。その実績をもって第二フェーズの設備投資に進む」というストーリーが成立します。

Step 5: 金融機関に見せる計画書に仕上げる

ここまでの4ステップで、事業計画の中身は揃っています。最後に、金融機関が読みやすい形に整えます。

事業計画書の構成

A4でまとめるなら、現状分析1ページ、施策一覧1ページ、数値計画1ページから始めるのが現実的です。分厚い資料を作ることが目的ではありません。

セクション 書くこと
1. 現状分析 売上推移(3期分)、コスト構造、主要KPI
2. 課題の特定 決算書とコスト分析から見えた課題(2〜3個に絞る)
3. 強みの整理 Step 2で書き出した強みのうち、事業計画に活かせるもの
4. 施策一覧 第一フェーズ(設備投資ゼロ)+ 第二フェーズ(設備投資あり)に分ける
5. 数値計画 月別の売上目標、コスト改善目標、営業利益の見通し。3年分
6. 資金計画 必要資金額、調達方法、返済計画、月次資金繰り表、返済原資(営業利益+減価償却費)の見通し
7. 実行スケジュール 誰が、いつまでに、何をするかを明記

金融機関が見ているポイント

金融機関の担当者が事業計画で見ているのは、「本当に実行できるか」です。立派な数字が並んでいても、施策が曖昧で、誰がやるのか分からない計画は信用されません。

特に重視されるのは 返済原資の見通し です。営業利益と減価償却費を合わせた簡易キャッシュフローが、毎月の返済額を上回っているか。この数字が合わなければ、いくら施策が良くても融資判断は難しくなります。月次の資金繰り表を添付し、「いつ資金が最も厳しくなるか」「その月をどう乗り切るか」まで示せると、担当者の安心感は格段に上がります。

逆に、「飲み比べプランを来月から導入する。客単価1,500円アップを見込む。初月の実績で効果を検証し、3ヶ月後に第二フェーズの設備投資判断をする」と書いてあれば、担当者は「この社長は考えて動いている」と感じます。

事業計画は、金融機関のために作るものではありません。自分の旅館の経営を、自分の手で動かすための道具です。

バンクミーティングの臨み方については、バンクミーティングの成功のコツでも詳しく解説しています。旅館の経営改善支援の全体像は経営改善サポートのご案内をご覧ください。

まとめ: 事業計画は「現在地」から始まる

旅館の事業計画は、5つのステップで作れます。

  1. 決算書3期分を並べる — 数字で現在地を把握する
  2. 強みを40個書き出す — 新しいことではなく「既にあるもの」を見つける
  3. コスト構造を分解する — 20%を鵜呑みにしない
  4. 設備投資ゼロの施策から着手する — 小さな成果を積み上げる
  5. 金融機関が読みやすい形に整える — 数字+施策+スケジュールの3点セット

特に大事なのは、Step 2の「強みの可視化」です。多くの旅館は、自分の強みに気づいていません。新しいことを足すのではなく、既にあるものを見つけて伝える。これだけで、お客様の反応が変わり、売上が動き始めます。

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