DDS・DESとは?温泉旅館の財務を立て直す2つの手法
DDS・DESとは、過剰債務を抱える温泉旅館が、金融機関やスポンサーとの交渉で財務を立て直すための専門的な手法です。借入返済が重く、利益が出ても手元資金が残らない場合に検討されます。
DDS(デット・デット・スワップ)は既存の借入条件を変更する手法、DES(デット・エクイティ・スワップ)は借入金を資本に振り替える手法です。どちらも「外科的手術の一歩手前の処置」にあたります。通常の経営改善(売上増・コスト削減)では間に合わない局面で、金融機関との交渉によって実行されます。
━━ この記事の著者 ━━
島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援先は300件超。認定経営革新等支援機関。
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要点: DDSは借入金を劣後ローン(返済順位の低い借入)に切り替える手法。DESは借入金を資本(株式)に振り替える手法。通常の経営改善では対処できない財務状況で検討されます。
まず確認:DDSやDESが必要な旅館とは
DDSやDESが検討される旅館には、共通した特徴があります。
- 借入金が年商を上回っている(過剰債務)
- 毎月の返済額が営業キャッシュフロー(営業利益+減価償却費)を超えている
- リスケジュール(返済条件の変更)をすでに実施済み
- 通常の経営改善(売上増・コスト削減)だけでは返済原資が確保できない
逆に言えば、通常の経営改善で対処できる段階であれば、DDSやDESを検討する必要はありません。まずは事業計画の策定やコスト構造の見直しから始めるべきです。経営改善支援の全体像は経営改善サポートのご案内をご覧ください。
DDSやDESは「最後の手段」ではありませんが、「通常の手段では足りない」と判断されたときに初めて選択肢に入る手法です。
借入の3つの段階を理解する
金融機関からの資金調達には、リスクとリターンの観点から3つの段階があります。DDSとDESがどの位置にあるかを押さえておくと、全体像が見えやすくなります。
| 段階 | 手法 | リスク | リターン | 返済順位 |
|---|---|---|---|---|
| 通常の貸付 | 銀行融資 | 低リスク | 低リターン(金利1〜3%程度) | 最優先で返済される |
| DDS(劣後ローン) | 借入金の条件変更 | 中リスク | 中リターン(金利は通常より高い) | 他の債権より後に返済 |
| 株式投資(DES含む) | 出資・資本参加 | 高リスク | 高リターン(配当・キャピタルゲイン) | 返済されない(残余財産の分配) |
DDSは通常の貸付と株式投資の中間に位置します。DESはさらに踏み込んで、借入金そのものを資本に振り替えます。
DDS(デット・デット・スワップ)とは
仕組み
DDSは、既存の借入金を劣後ローンに切り替える手法です。劣後ローンとは、返済順位が他の借入より後回しになる借入のことです。
通常の借入金が10本あるとします。そのうち1本を劣後ローンに切り替えると、万が一会社が破綻した場合、残りの9本が先に返済され、劣後ローンは最後に回されます。つまり、劣後ローンを出した金融機関は、回収できないリスクを引き受けることになります。
その代わり、劣後ローンは金融機関の資産査定上「資本に準ずるもの」として扱われます。見かけ上、借金が減って自己資本が増えたような効果が得られるのです。
日本政策金融公庫の「資本性ローン」が入口として最も一般的
DDSの概念に近い制度として最も知られているのが、日本政策金融公庫の「資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付等)」です。中小企業事業と国民生活事業の両方で取り扱われており、公庫のホームページに条件が掲載されています。
厳密に言えば、DDSは「既存借入を劣後ローンに条件変更する」手法であり、公庫の資本性ローンは「新たに資本性の資金を供給する」制度です。両者は同一ではありませんが、金融機関の資産査定上「自己資本とみなせる」という効果は共通しています。実務上、公庫の資本性ローンの活用がDDSの検討の入口になることが多いです。
地方銀行も劣後ローンのメニューは持っています。しかし、リスクが高い支援であるため、ホームページにも掲載しておらず、積極的には使いたがりません。まず日本政策金融公庫から検討するのが現実的です。
金利は通常より高くなる
劣後ローンは通常の融資より金利が高くなります。金融機関にとって回収リスクが高い貸付だからです。日本政策金融公庫の資本性ローンの金利条件は公式サイトで公開されていますので、検討の際は最新情報をご確認ください。
実務上の条件:メインバンクとの協調が前提
日本政策金融公庫に資本性ローンを申し込む場合、重要な条件があります。地方銀行が背負いきれないリスクがあり、そのリスクを緩和する目的で公庫が劣後ローンを実行する、という位置づけでなければなりません。
つまり、DDSは「公庫が単独で助けてくれる制度」ではなく、メインバンクである地方銀行との協調の中で使われる手法です。
私の支援先であった実例をお話しします。ある温泉旅館で資本性ローンを日本政策金融公庫に打診したところ、公庫から返ってきた条件は「メインバンクからの貸付金の一部について債権放棄がなければ、資本性ローンは実行できない」というものでした。債権放棄とは、金融機関が貸付金の一部の回収をあきらめ、旅館側の借金を減らす金融支援です。
それほど踏み込んだ金融支援が前提になるということです。逆に言えば、金融機関が「これ以上は融資できない」という危機的な状況であっても、なお事業を継続させるために、地方銀行の融資を後押しする形で公庫が資本性ローンを出す——そういう場面で使われる制度です。
ケースバイケースで判断されるため、打診してみなければ結果は分かりません。しかし、簡単に通るものではないという認識は持っておく必要があります。
DDSの検討が必要な財務状況でお悩みの方へ
ハンズバリューでは、認定経営革新等支援機関として、金融機関との交渉を含む経営改善の支援を行っています。DDSや経営改善計画の策定について、初回無料でご相談いただけます。
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは
仕組み
DESは、借入金(デット)を株式(エクイティ)に振り替える手法です。DDSが「借入の条件変更」であるのに対し、DESは「借入そのものを消して、資本に変える」という、さらに踏み込んだ処置です。
債権者の貸付金を現物出資等により株式へ転換します。負債が減り純資産が増える効果がありますが、会計・税務上は資本金だけでなく資本準備金や債務消滅益が生じる場合があります。実行前には税理士・弁護士・金融機関を交えた設計が必須です。
簡略化すると、以下のような効果が生まれます。
| 項目 | DES実行前 | DES実行後 |
|---|---|---|
| 借入金 | 1億円 | 大幅に減少 or ゼロ |
| 純資産 | 債務超過 | 改善(資本金・資本準備金が増加) |
| 毎月の返済 | あり | その分は不要に |
| 株主構成 | 現オーナーのみ | スポンサーが株主に |
借金が減り、代わりにスポンサーに株式が発行される。財務上は大きな改善ですが、株式を渡す=経営権を渡す可能性がある点は十分に理解しておく必要があります。
ファンド・スポンサーによる買収で使われることが多い
私の経験では、DESは金融機関が直接行うよりも、ファンドやスポンサーが温泉旅館を買収する際に使われることが多い手法です。
典型的なスキームを整理します。
【DESを活用した買収スキームの流れ】
Step 1: スポンサーが旅館に対して、金融機関への借入金と同額を貸付する
(例: 旅館が金融機関に1億円の借入がある → スポンサーが旅館に1億円を貸付)
Step 2: 旅館はスポンサーから借りた1億円で、金融機関に一括返済する
(→ 金融機関への借入金はゼロになる)
Step 3: 資本関係の整理を行う(株式の譲渡等)
Step 4: スポンサーの貸付金を資本(株式)に振り替える(=DES)
(→ 旅館の借入金はゼロ、純資産が増加する)
Step 5: スポンサーに株式が発行される(=スポンサーが株主になる)
このスキームのポイントは、金融機関は一括返済を受けるため、債権回収の問題が解消されることです。スポンサーは株式を取得して経営に関与し、旅館は借入金がなくなって財務が改善する。三者にとってメリットがあるから成立します。
なお、金融機関から直接債権を割り引いて買い取る方法もありますが、これにはサービサー(債権回収会社)の資格が必要です。サービサーの資格を持たないスポンサーが買収する場合に、上記の「貸付→一括返済→DES」のスキームが使われます。
私が東北の温泉旅館再生で確認したケースでも、金融機関への一括返済、スポンサー貸付、株式取得、貸付金の資本化を組み合わせる形で、過剰債務の整理と経営体制の再構築が行われました。旅館名やファンド名は守秘義務上明かせませんが、机上の制度論ではなく、現場で実際に使われている手法です。
DDSとDESの使い分け
| DDS | DES | |
|---|---|---|
| 何が変わるか | 借入の条件(通常→劣後) | 借入が資本に変わる |
| 借入金は残るか | 残る(返済順位が下がるだけ) | 大幅に減少 or なくなる |
| 経営権 | 変わらない | スポンサーに移る可能性あり |
| 主な使い手 | 日本政策金融公庫 + メインバンク | ファンド・スポンサー |
| 使われる場面 | 経営改善の一環。今の経営者が事業を継続 | 買収・事業再生。経営体制が変わることが多い |
| 税務・会計 | 比較的シンプル | 資本準備金・債務消滅益等の論点あり。専門家必須 |
| 難易度 | 高い(メインバンクとの協調が必要) | 非常に高い(スポンサーの参画が前提) |
DDSは「今の経営者が事業を続けながら財務を改善する」手法。DESは「経営体制を含めて再構築する」手法です。
どちらを検討すべきかは、借入の規模、返済能力、金融機関との関係、後継者の有無によって異なります。
金融機関の担当者にお伝えしたいこと
融資先の旅館が過剰債務を抱えている場合、DDSやDESの選択肢を経営者に説明できる担当者は多くありません。しかし、これらの手法を知っているかどうかで、支援の幅が大きく変わります。
社長にお会いした際、以下を確認してみてください。
ひとつ、「借入金の返済スケジュールと、毎月の営業キャッシュフローのバランスは取れていますか」。
ふたつ、「リスケジュールを実施したことはありますか。その効果はどうでしたか」。
みっつ、「後継者や事業の引き受け手について、考えたことはありますか」。
返済が営業キャッシュフローを超えており、リスケジュールでも改善しない場合は、DDSの検討が必要な段階です。後継者問題が重なっている場合は、DESを含むM&Aの選択肢も視野に入ります。
温泉旅館のM&A・事業承継についてはつなぐMAでも詳しく解説しています。
まとめ
DDSとDESは、温泉旅館の財務を立て直すための専門的な手法です。
- DDS: 既存借入を劣後ローンに条件変更する。日本政策金融公庫の資本性ローンが入口として最も一般的。今の経営者が事業を続けながら財務を改善できる
- DES: 借入金を資本(株式)に振り替える。ファンド・スポンサーによる買収時に使われることが多い。経営体制の変更を伴う可能性がある。税務・会計上の専門的な検討が必須
- どちらも通常の経営改善では間に合わない局面で検討される「外科的手術の一歩手前の処置」
重要なのは、DDSやDESが必要な状況に至る前に、事業計画の策定とコスト構造の見直しを行うことです。早い段階で専門家に相談いただければ、より多くの選択肢を持った状態で対策を打つことができます。
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