変動損益計算書とは?経営判断を誤らないための読み方と活用法

試算表では黒字なのに、資金繰りは苦しい。製造業では、このズレがよく起きます。

理由は、PLと製造原価報告書の見方にあります。PLは会社の利益を確認するために大切な資料です。製造原価報告書も、工場でどれだけ原価がかかったかを確認するために欠かせません。

ただし、経営判断ではもう一段、数字を組み替える必要があります。売上に連動して増える費用と、売上が下がっても残る費用を分けて見る。これが、変動損益計算書の役割です。

━━ この記事の著者 ━━

島田慶資(しまだ けいすけ)|ハンズバリュー株式会社 代表取締役。東北6県の温泉旅館を中心に、経営改善・事業再生のコンサルティングを10年以上実施。支援案件は延べ1万件超、補助金等の累計調達支援額は500億円。認定経営革新等支援機関。東日本大震災、令和元年台風、福島県沖地震などの復旧・再建局面でも、事業者の生活と事業継続を守る支援に取り組む。事業再構築補助金・中小企業成長加速化補助金の採択支援実績あり。

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この記事の結論

変動損益計算書は、PLや製造原価報告書を否定する資料ではありません。経営判断のために、費用を「売上に連動する費用」と「毎月残る費用」に分け直す資料です。

1. 売上高 – 売上に連動する費用 = 限界利益

2. 限界利益 – 毎月残る固定費 = 管理会計上の利益

3. 管理会計上の利益 ÷ 限界利益 = 経営安全率

製造業では特に、製造原価報告書の中にある材料費、外注費、工場人件費、減価償却費を分けて見ることが重要です。PLだけを見ると黒字でも、工場の固定費や在庫増加を踏まえると、判断が変わることがあります。

事例の前提:山形県の部品加工業

山形県内で金属部品を加工している製造業を例にします。自動車部品や産業機械向けの小物部品を作っており、社員は18名。月商は3,000万円です。

この会社では、翌月以降の受注回復を見込んで、今月は少し多めに生産しました。しかし、販売は思ったほど伸びず、完成品在庫が増えました。

ここで社長は迷います。PLを見ると黒字です。しかし、材料費も人件費も支払っているため、手元資金は苦しくなっています。このようなときに、PLだけで「黒字だから大丈夫」と判断すると、経営判断を誤ることがあります。

この事例について

以下の数字は、実在企業の決算書ではありません。製造業の相談現場でよく起きる構造を、理解しやすい金額に置き換えた事例です。

まずPLではどう見えるか

PLは、売上から売上原価と販売管理費を引いて、利益を確認する資料です。今回の会社の月次PLは、次のように見えています。

税務会計のPL(月次) 金額 読み方
売上高 3,000万円 今月販売した製品の売上
売上原価 2,100万円 今月販売した製品に対応する原価
売上総利益 900万円 売上高から売上原価を引いた利益
販売管理費 700万円 営業、事務、役員報酬、家賃など
営業利益 200万円 PL上は黒字

このPLだけを見ると、「営業利益が200万円出ているので、まずまず順調」と見えます。

しかし、製造業ではここで立ち止まる必要があります。なぜなら、売上原価は「今月工場で発生した費用そのもの」ではなく、「今月売れた製品に対応する原価」だからです。

次に製造原価報告書を見る

製造原価報告書は、工場で製品を作るためにどれだけ費用がかかったかを見る資料です。材料費、外注加工費、工場の人件費、設備の減価償却費などが出てきます。

今回の会社では、今月の工場側の費用は次のようになっています。

製造原価報告書(月次) 金額 経営判断での見方
直接材料費 1,200万円 製品を作る量に応じて増えやすい費用
外注加工費 300万円 外注に出す量に応じて増えやすい費用
工場人件費 700万円 売上が下がってもすぐには減らない費用
工場減価償却費 250万円 設備を持つ限り発生する費用
工場水道光熱費・修繕費など 150万円 一部は変動するが、まずは固定費寄りで見る
当月製造費用 2,600万円 今月、工場で発生した費用の合計
完成品在庫の増加分 ▲500万円 売れずに在庫として残った分
売上原価 2,100万円 PLに載る原価

当月製造費用2,600万円 – 完成品在庫の増加分500万円 = PLに載る売上原価2,100万円

ここが、製造業で判断を誤りやすいところです。今月の工場では2,600万円の費用が発生しています。しかし、そのうち500万円分は在庫として残ったため、PL上は今月の費用になっていません。

会計処理としては正しい見方です。一方で、経営判断では「在庫に乗ったから安心」とは言えません。材料を買い、外注費を払い、人件費も発生しています。在庫が増えた分だけ、資金は製品の形で寝ているからです。

社長が誤解しやすい見方

PLで営業利益200万円と出ていると、社長は「黒字だから、今のまま生産を続けてもよい」と考えがちです。

しかし、今回の黒字には、完成品在庫が増えた影響が含まれています。特に製造業では、工場人件費や減価償却費の一部が在庫に含まれるため、売れ残りが増えるとPL上の利益がよく見えることがあります。

見方 判断 落とし穴
PLだけを見る 営業利益200万円なので黒字に見える 在庫が増えた影響を見落としやすい
製造原価報告書も見る 工場では2,600万円の費用が発生しているとわかる 費用の性格を分けないと、次の打ち手が決めにくい

そこで、PLと製造原価報告書を経営判断用に組み替えます。その形が、変動損益計算書です。

変動損益計算書に組み替える

変動損益計算書では、費用を2つに分けます。ひとつは、売上や生産量に連動しやすい費用。もうひとつは、売上が一時的に下がっても毎月残る費用です。

分類 今回の例 読み方
売上に連動する費用 売れた製品に対応する材料費、外注加工費、運賃、消耗品など 売上が増えるほど増えやすい費用
毎月残る固定費 工場人件費、減価償却費、家賃、事務人件費、役員報酬など 売上が下がってもすぐには減らない費用

今回の会社を変動損益計算書で見ると、次のようになります。

変動損益計算書(月次) 金額 計算の意味
売上高 3,000万円 今月販売した製品の売上
売上に連動する費用 1,300万円 売れた製品に対応する材料費、外注加工費など
限界利益 1,700万円 固定費を支えるために、まず会社に残るお金
毎月残る固定費 1,800万円 工場人件費、減価償却費、販管費など
管理会計上の利益 ▲100万円 経営判断上は、固定費をまかない切れていない

売上高3,000万円 – 売上に連動する費用1,300万円 = 限界利益1,700万円

限界利益1,700万円 – 毎月残る固定費1,800万円 = 管理会計上の利益▲100万円

限界利益という言葉は難しく聞こえますが、意味はシンプルです。売上から、売上に連動して消える費用を引いたあとに、まず会社に残るお金です。

今回の会社では、まず1,700万円が残ります。しかし、工場人件費、減価償却費、販売管理費などの固定費が1,800万円あります。そのため、経営判断上は100万円足りていません。

同じ会社が黒字にも赤字にも見える理由

ここで、「PLでは200万円の黒字なのに、変動損益計算書では100万円の赤字になるのはおかしい」と感じるかもしれません。

これは矛盾ではありません。見ている目的が違うだけです。

資料 見ているもの 今回の見え方
PL 会計上の利益。今月売れた製品に対応する原価を使う 営業利益200万円の黒字
製造原価報告書 工場で発生した費用と、在庫に残った原価を見る 当月製造費用2,600万円、在庫増加500万円
変動損益計算書 売上に連動する費用と、毎月残る固定費を分けて見る 管理会計上の利益▲100万円

PLは、決算や税務申告、金融機関への説明に必要な資料です。製造原価報告書は、工場で何にいくらかかったかを確認するために必要です。

一方で、変動損益計算書は「売上をいくら増やせばよいか」「値上げをどれだけすべきか」「不採算受注を続けてよいか」「在庫を作りすぎていないか」を考えるための資料です。

経営安全率は率だけでなく金額で見る

変動損益計算書を作ると、経営安全率を計算できます。経営安全率とは、売上がどれくらい下がっても赤字にならないかを見る指標です。

ただし、現場では率だけを見ても行動につながりません。大切なのは、「あといくら限界利益が足りないか」を金額で見ることです。

経営安全率 = 管理会計上の利益 ÷ 限界利益

今回の例:▲100万円 ÷ 1,700万円 = マイナス。すでに固定費をまかない切れていない状態です。

仮に、この会社が経営安全率15%を目標にするなら、必要な限界利益は次のように考えます。

項目 金額 考え方
毎月残る固定費 1,800万円 まず固定費をまかなう必要がある
安全率15%に必要な限界利益 約2,118万円 1,800万円 ÷ 85%
現在の限界利益 1,700万円 今月の実績
不足している限界利益 約418万円 値上げ、原価改善、売上増で埋めるべき金額

この会社の限界利益率は、1,700万円 ÷ 3,000万円 = 約56.7%です。現在の利益構造のまま売上だけで不足分を埋めるなら、売上は月3,735万円程度必要になります。

つまり、月商3,000万円の会社が、あと約735万円の売上を積まなければ安全率15%に届かないということです。ここまで数字にすると、「頑張って売上を伸ばす」ではなく、「値上げ、不採算受注の見直し、外注費の改善、在庫生産の抑制をどう組み合わせるか」という話になります。

打ち手はPLの黒字額ではなく、限界利益の不足額から決める

PL上の営業利益200万円だけを見ると、打ち手はぼんやりします。しかし、限界利益が約418万円不足しているとわかれば、打ち手を金額で検討できます。

打ち手 数字での見方 実務上の確認点
値上げ 売上3,000万円の2%値上げで、販売数量が同じなら限界利益は約60万円増える 主要得意先別に、価格改定の余地を確認する
不採算受注の見直し 材料費と外注費を引いたあと、ほとんど残らない受注を洗い出す 売上高ではなく、受注ごとの限界利益で見る
外注費・歩留まり改善 材料ロスや外注単価を下げると、限界利益が直接増える 不良率、段取り替え、再加工の発生状況を確認する
在庫生産の抑制 売れない製品を作ると、資金が在庫に寝る 販売見込みのない先行生産を止める
固定費の見直し 残業、夜勤体制、遊休設備、保守契約などを見直す 技術者や品質維持に必要な固定費まで急に削らない

重要なのは、黒字か赤字かという結果だけでなく、限界利益をいくら増やせば固定費を支えられるのかを確認することです。これが見えると、値上げ交渉、受注選別、生産計画、在庫圧縮の優先順位がつけやすくなります。

実務での作り方

変動損益計算書は、最初から完璧に作る必要はありません。まずは、月次試算表、PL、製造原価報告書を並べて、次の順番で整理します。

変動損益計算書を作る順番

  1. PLで、売上高、売上原価、販売管理費を確認する
  2. 製造原価報告書で、材料費、外注費、工場人件費、減価償却費を確認する
  3. 材料費や外注費など、売上に連動しやすい費用を分ける
  4. 工場人件費、減価償却費、家賃、事務人件費など、毎月残る固定費を分ける
  5. 在庫が増えた月、減った月は、PLの利益が実態よりよく見えたり悪く見えたりしていないか確認する
  6. 限界利益、固定費、管理会計上の利益、経営安全率を毎月確認する

まずは大まかな分類でかまいません。水道光熱費のように、一部は生産量に連動し、一部は固定的に発生する費用もあります。最初から細かく分けすぎると、表を作ることが目的になってしまいます。

実務では、まず経営判断に効く大きな項目から分けます。材料費、外注費、工場人件費、減価償却費、販管費。この5つを分けるだけでも、PLだけでは見えなかった問題がかなり見えるようになります。

まとめ

変動損益計算書とは、売上高から売上に連動する費用を引き、そこから毎月残る固定費を引いて、経営判断に使える利益を見る資料です。

PLや製造原価報告書は、会社の数字を確認するために必要です。しかし、製造業では在庫の増減によって、PL上の利益と資金繰りの感覚がズレることがあります。

だからこそ、PL、製造原価報告書、変動損益計算書を並べて見ることが大切です。黒字か赤字かだけでなく、限界利益がいくら足りないのか、固定費をどこまで支えられているのか、経営安全率をどの水準まで戻すべきか。そこまで見えて、はじめて次の打ち手を決められます。

試算表を経営判断に使える形へ整えたい方へ

ハンズバリュー株式会社では、PL、製造原価報告書、資金繰り表を整理し、変動損益計算書と経営安全率を使って次の打ち手を一緒に検討します。数字を眺めるだけで終わらせず、値上げ、受注選別、在庫圧縮、資金繰り改善まで落とし込みます。

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