週刊島田慶資|逆転思考「品数で勝てない旅館の逆襲」

皆様、こんにちは! ハンズバリュー株式会社の島田です。

社内で回覧していただいているお客さまがいらっしゃいました。ありがとうございます!!
著作を明記していただけるのであれば、自由に配布ください。

変革者の円卓会議で一緒に勉強しましょう。
https://handsvalue.co.jp/service/game-changers/


島田の独り言

❶ 皆様、お久しぶりです。メールマガジン、再開できました。
同友会での体験報告、成長加速化補助金の交付申請、システム開発…激動の3ヶ月でした。引き続きよろしくお願いします。

❷ 生成AIの活用を進めています。パソコンの中に秘書を6人いれてみました。それぞれが特技を持っているので、協力して仕事を進めてくれています。人生5回分くらいのスピードで仕事ができています。メルマガを再開できたのも彼女たちのおかげです。

❸ 妻に叱られて、坊やがご立腹に。「もう独りで暮らす」とおこって自室にこもりました。どこでおぼえてくるんでしょうね。


島田の気になるニュース

❶ 金融機関さんが閲覧するウェブ媒体で連載を持たせていただきました。頑張ります。
URL: https://www.nikkinonline.com/premium/article/384032

❷ 東日本大震災の復興格差を取材いただきました。山形・秋田は本当にひどい状況です。
URL: https://slownews.com/n/n09367b44cf22

❸ 経産省、同族企業の統治指針を策定。理念の明文化を推奨とのこと。
何のために我があるのか、答えを出せた会社は強くなると考えます。改めて経営とは何か? 稼ぐことか? 食わすことか? といろいろ考えさせられますね。
URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2660O0W6A320C2000000/


常識: 小さな旅館は品数で大型旅館に勝てない
逆転: 品数で勝てないからこそ、献立を動かし続けられる

島田慶資の逆転思考

皆さんこんにちは。変革者作家の島田慶資です。

長らくお休みをいただいておりました。2月2日から約3ヶ月間、メールマガジンの配信を止めておりました。この間、子供の卒園式、福島県生産性向上支援センターでの勤務開始、中小企業家同友会での体験報告など、僕にとっても激動の3ヶ月でした。

今日からこのメールマガジンは、新しいテーマで再出発します。
テーマは — 「変革」です。

最初のシリーズで扱いたいのが「逆転思考」。一般的に「不利」と見られている条件が、視点を変えるだけで強みに裏返ってしまう。その瞬間を、現場の事例と一緒にお届けしていきます。


「うちは、何で勝てるんでしょうか」

とある県の、ある特殊な温泉地でのお話です。
周辺には大型の温泉旅館が立ち並び、ほぼすべてがバイキング形式で朝夕の食事を提供しています。中にはオールインクルーシブで飲み放題、という旅館もあります。

その中に、ご夫婦で営まれている小さな旅館があります。お手伝いの方はいらっしゃるのですが、料理はほとんど奥様お一人で対応されています。

ある日、その経営者の方とお話していて、こう問われました。

「島田さん、うちは何で勝てるんでしょうか。周りはみんなバイキングで、品数も豊富で、飲み放題までやってる。うちは女房の手料理しかない」

僕には、答えのおおよその見当はついていました。

ただ、コンサルティングの現場では、答えを先に申し上げてしまうと、ほとんどの場合うまくいきません。「島田さんがそう言うなら」で始まった施策は、現場で続かないからです。

経営者ご自身が、ご自身の言葉で答えにたどり着く。その瞬間にしか、本当の変革は始まりません。

ですから僕の仕事は、答えを言うことではなく、経営者が答えにたどり着くための問いを、適切な順番で置いていくことです。

その日の議論は、たぶん三時間くらい続きました。お茶を何杯もいただきながら、行ったり来たりしました。

ここでは、長い議論の中から、振り返ると転換点になった三つのやりとりを抜き出してご紹介します。


一つ目 ― 「相手は、バイキングをやめられますか?」

最初に、こうお聞きしました。

「あの大型旅館さんって、たとえば来週から御膳形式に切り替えます、ってできるものですか?」

経営者の方は、少し笑って首を振られました。

「できないですよ。あの規模で、あの人員配置で、いまさら御膳なんて。仕入れも、調理場も、全部組み直さなきゃいけない」

このやりとりの後、しばらく沈黙がありました。
その沈黙の中で、お互いに同じことを考えていたのだと思います。

そう、バイキングは大型旅館の選択肢ではなく、動かせない制約だったのです。
品数で勝負できているのは、バイキングという形式に縛られているから。毎日、決まった品数を、決まった時間に並べ続けなければなりません。

そして、ご夫婦で営む小さな旅館は、その制約を持っていません。
奥様が料理を担当しているからこそ、御膳の内容を季節で、月で、食材の旬に合わせて、こまめに変えられます。

品数では勝てない。
でも、機動性では負けない。

ここで、ひとつ目の手応えが見えてきました。


二つ目 ― 季節の話から、ふと出てきた言葉

一つ目の手応えを共有した上で、次の問いに進みました。
「最近、お客さんの顔ぶれってどうですか」とお聞きしたところ、奥様の方が答えてくださいました。

「もう全然違いますね。夏休みと年末年始は観光のお客様で、冬のシーズンは地元の常連さんがほとんどです」

僕はそのまま、もう一つだけ聞きました。

「同じ料理を出してます?」

ご夫婦は顔を見合わせて、しばらく考えておられました。
そして、ご主人の方がぽつりとこう仰いました。

「……変えてもいいんだよな、別に。むしろ変えた方がいいのかもしれない」

この瞬間が、二つ目の転換点でした。

客層が季節で大きく変わるというのは、運営する側からすれば、一見、厄介な条件です。料理もサービスも、相手によって最適解が違うからです。
ところが、機動性のある御膳スタイルなら、それがそのまま強みに変わります。

観光のお客様が多い時期は、観光のお客様に向けた献立。
地元のお客様の時期は、地元の方に「いま、この食材の時期ですね」と伝わる献立。

お客様の属性が変わるなら、こちらも変える。これは、毎日同じバイキングを並べる大型旅館にはできない芸当です。

ここでも僕は、答えを口にしませんでした。「同じ料理を出してます?」と聞いただけです。答えを引き出すための問いだけが、僕の仕事でした。


三つ目 ― 「ところで、お客様は昼間どこにいるんですか?」

三時間の議論も後半に入った頃、最後の問いを置きました。

「観光のお客様って、ここに着くまで昼間どうしてるんですか。どこで何を食べて来られるんでしょう」

ご夫婦は、ほぼ同時に答えられました。

「そばですね。みんな、向こうのそば処で食べてから来ます」

この地域はおそばの名産地で、観光のお客様の多くは、昼に近隣のそば処で食事をしてから、夕方に宿に入る、という動線になっています。

僕が「ああ、そうなんですね」と相槌を打ちかけたところで、奥様が動きを止めて、こう仰いました。

「……だったら、夜にそばっぽいもの、出さない方がいいわね」

これが、三つ目の転換点でした。

昼に出会った味わいを夜に重ねるよりも、昼に出会わなかった食材、昼に出会わなかった味わいを夜に並べる方が、お客様の一日全体の食の満足度は上がります。

地域全体を一つの「食の体験」として捉えたとき、自分の旅館が夜に何を担うべきかが、はっきり見えてきます。
これも、毎日同じバイキングを並べる前提では、決して見えてこない景色です。

そして、これに気づかれたのも、奥様ご自身でした。


そして、料理改革が始まりました

三時間の議論を経て、その日のうちに、ご夫婦の口からひとつの結論が出ました。

「うちの献立、組み直しましょう」

翌週から、料理改革が動き始めました。

動かしたのは、大きな投資でも、新しい設備でもありません。動かしたのは献立の組み立て方そのものです。改革の柱は、議論の中で見つかった三つの軸でした。

ひとつ目は、「相手の制約を見る」。
大型旅館がバイキングで動けない以上、こちらは御膳の内容をどんどん動かす。月単位、できれば二週間単位で旬の食材を入れ替え、品数ではなく鮮度と物語で勝負する献立にする。「先月とは違うものが出てきますね」とお客様が思ってくださる状態を、運用の標準にする。

ふたつ目は、「お客様を見る」。
観光のお客様が多い時期と、地元のお客様が多い時期で、献立そのものを切り替える。観光のお客様には「この土地に来たからこそ食べられる一皿」を中心に。地元のお客様には「この季節だからこそ家では出てこない一皿」を中心に。同じ宿でも、季節ごとに別の顔を持つ献立体系を組む。

みっつ目は、「地域全体を見る」。
観光のお客様が昼にそば処を経由してくることを前提に、夕食の御膳からはそばを連想させる構成を意識的に外す。代わりに、昼には出会えない食材 — その日の魚、山菜、地元の味噌や醤油の組み合わせ — を夜に並べる。地域全体を一日の食の旅と捉え、自分の旅館は「夜の章」を担う、という設計思想に切り替える。

経営者の方は、この三つの軸を紙に書き出して、厨房の壁に貼られたそうです。
そして奥様は、月ごとの食材ノートを付け始められました。先月までは「献立表」だったものが、「お客様と季節と地域を見るためのノート」に変わったのです。

これが、料理改革の出発点になりました。

献立は今も少しずつ動き続けていて、完成はしません。むしろ、「完成しないこと」そのものが、この旅館の打ち出しになりつつあります。毎月変わる、来るたびに違う、その時の旬と、その時のお客様に合わせて組み直される御膳 — これは、毎日同じバイキングを並べる大型旅館には、絶対に名乗れない看板です。

不利だと思われていた「品数で勝てない」は、「だから献立を動かし続けられる」という強みに反転しました。
不利だと思われていた「客層が季節で変わる」は、「だから献立を切り替える理由がある」という強みに反転しました。
不利だと思われていた「周りにそば処がある」は、「だから夜の章を担える」という強みに反転しました。

事実は、何ひとつ変わっていません。
変わったのは、その事実の読み方と、そこから導かれた運用だけです。
そして、読み替えたのも、運用を変えたのも、いつも経営者ご夫婦ご自身でした。


振り返ってみて

その日、僕が口にしたのは、三つの問いだけです。

  • 相手は、バイキングをやめられるのか
  • お客様には、同じ料理を出しているのか
  • 観光のお客様は、昼間どこで何を食べているのか

どれも、当たり前のように聞こえる問いかもしれません。
ただ、当たり前の問いを、適切な順番で、適切なタイミングで置けるかどうかが、現場では決定的になります。

そしてもう一つ、大切なことがあります。
問いを置いた後、答えを引き出すのは経営者ご自身ですが、引き出した答えを、翌週から運用に落とすのも、経営者ご自身です。料理改革が動き出したのは、ご夫婦が「やる」と決めたからにほかなりません。

僕たち外部の人間は、問いを置くこと、そしてその答えを運用に落とす作業に伴走することはできます。けれども、最後にスイッチを入れるのは、いつも経営者ご自身です。


変革の入口にある一つの問い

経営の現場で「うちは不利だから」「うちは小さいから」「うちは資源がないから」という言葉を聞くたびに、僕はこの旅館のことを思い出します。

本当に不利なのか。それとも、まだ事実を確認しきれていないだけなのか。

変革は、いつもこの問いから始まります。

僕たち外部の人間の仕事は、経営者ご自身が答えにたどり着くための問いを、適切な順番で置いていくことです。答えはいつも、経営者ご自身の中にあります。僕たちは、その場所を、問いを通じて指さしているだけなのです。

そして、答えにたどり着いた経営者が、次の月曜日から動き始める。
その瞬間に、変革は始まります。

次回も、現場で出会った「逆転」の事例をお届けします。

変革者作家・島田慶資

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