注意:この物語はフィクションであり、架空の設定・登場人物・シチュエーションを使用しています。ハンズバリュー株式会社の経営支援のスタイルや考え方を分かりやすく伝えるためにショートストーリー形式で表現しています。
山形県と福島県で新卒採用のコンサルティングを行っているハンズバリュー株式会社、コンサルタントの津名具ハナコです。
今回はラーメン屋さんの支援③最終回です。①はコチラ、②はコチラから。
よーし、頑張るぞ!!
今までのまとめ
店主たちが無理をしないように気を配りながら、「まずは、止血作戦!」と提案した。
経営改善のため、電気料金の見直しや追加の資金調達に加え、値上げが決定したのだが・・・
「やっぱり、値上げは⼼苦しいな…」
店主が小さな声でつぶやいた。
一旦は値上げを決意したものの、具体的に話が進むにつれて迷いが生じたようだ。
「お気持ちはよくわかりますが、労働時間を増やすことで売上を増加させるのは現実的ではありません。体⼒的に⼼配があります」
ハナコは店主の目を見つめ、ゆっくりした口調で続ける。
「売上は客数と客単価で成り⽴っています。現状、客数を増やすのは難しいと思います。伸びしろがあるとすれば店頭に設置した冷凍⾷品の⾃動販売機ですが、お店のファンが購⼊してくださっていることを考慮すると、客数を増やさない限り利⽤者数も変わらない可能性が高いですし」
きつく聞こえるかもしれないが、正論である。店主たちのためにハッキリ伝えるべきことだと、ハナコは⾔葉を選びながら説明した。
俯いてしまった店主をちらっと見ると、ハナコは敢えて明るい口調で尋ねた。
「ところで、販売しているラーメンの価格はいつ決めたものですか?」
店主は⾸をかしげる。
「5年前かな?いや、東⽇本⼤震災のときにはもう、 この価格だったような気がする」
ハナコは穏やかな口調で
「東⽇本⼤震災から経営状況はずいぶん変わっています。きっと、お客様にもご理解いただけるはずです」
「・・・」
「値上げを実⾏することがお店の体質を改善する唯⼀の道だと考えています。売上や利益率が向上しますから。もちろん、値上げは客数を減らすこともありますが、お店のファンがしっかりついていることから、客数の減少は限定的だと考えています」
「…だといいのだけど」店主はまだ不安げだ。
「はい、経営状況は⼤きく変化しています。お店の存続のために値上げが必要だということを、お客様も理解してくださるはずです」ハナコは店主を励ますように繰り返す。
「だよな、店を続けることを考えないといけないよな。分かった、値上げをしよう。グズグズ言って済まなかったね」
ハナコはにっこりとほほ笑む。
「いえいえ、大切なお店のことですから納得してから進みましょう!では早速、値上げの幅を決めましょうか。 経営改善が⽬的ですから、最大の効果を狙っていきましょう」ハナコはスケッチブックに向かう。
「試算表を確認するとより正確な情報提供ができるのですが、まず、意思決定のためにざっくりと現状を分析します」 ハナコが書いたのは次のようなポイントだった。
・店主の肌感覚で毎⽉10万円程度の現⾦が減少している
・⽣活も事業も無駄がほとんどない
・減価償却費はゼロであり、コロナ禍で制度融資を利⽤したが返済はまだ始まっていない
・1⽇の売上は7万円程度
ハナコは、これらの情報を基に計算を進めた。
・1ヶ⽉の営業⽇を20⽇とすると、⽉商140万円
・原価率を30%と仮定すると、粗利は⽉98万円
・10万円の⾚字キャッシュフローを改善するためには、売上ベースで15万円(粗利ベースで10万円)以上必要
・⽇商7万円からおおよその客数を求める。客単価850円で考えれば83⼈。 店主の肌感覚とも⼀致しているとのこと
ハナコは店主にひとつひとつ確認しながらまとめた。
「20⽇稼働とすれば1ヶ⽉の延べ来店客数は1,660⼈になります。単純計算で全品61円の値上げができれば、10万円以上の利益増になるため⾚字キャッシュフローの問題は解決します。可能であれば、余裕を持って100円の値上げを狙いたいところです」
「なるほど。そうやって計算するんだな」
「試算表を確認すればより正確な⽬標値を⽰すことができると思いますが、おそらくそれほど変わらないはずです」
店主はハナコの⾔葉にじっくり⽿を傾け、呟いた。
「創業以来、最⼤の値上げだな」
ハナコはうなずく。
「単純に100円の値上げを実⾏しても良いですが、⼯夫次第で、お客様の負担感を軽減しながら⽬標達成が狙えるかもしれません。例えばですね…」
ハナコはスケッチブックに⾚字キャッシュフロー改善⼤作戦をまとめた。
1つ⽬、値上げ告知のポスターを作ること。 店主⾃⾝の⼿書きで、値上げ理由をお客様に伝わるように書くこと。電気代や燃料費の⾼騰、原材料も物価⾼のあおりを受けていることを店主自身の言葉で説明。
2つ⽬、単純な値上げを実⾏すること。 1番⼈気の醤油ラーメンを750円から850円に、2番⼈気の味噌ラーメンを820円から 850円へ値上げ。同じ価格にすることで、お客様がその⽇の気分で選んでもらえるようにして、リピート率向上に繋がることを狙う。その他、チャーシュー麺などは均⼀に60円の値上げ。
3つ⽬、メニュー表を作ること。現在は壁メニューしかなく、席によっては⾒にくいこともあり、醤油ラーメンに注⽂が集中していた可能性がある。醤油ラーメンの⼤胆な値上げにより、他のメニューに割安感が出ることを利⽤する。各テーブルに簡単なメニュー表を設置して付加価値の⾼いメニューの指名率を引き上げる。
4つ⽬、店頭設置の冷凍⾷品⾃動販売機に新商品追加。 冷凍ラーメンを販売しているが、量産が可能なスープ単体や付加価値の⾼いチャーシュー(1本とハーフサイズ)を冷凍商品として追加する。チャーシューはファンの⽅が、おつまみやおかずの⼀品として購⼊してくれることが期待できる。スープはカスタマイズしたいマニア需要があるかも。
「これらの作戦を実⾏すれば、お客様にも値上げの理由が伝わりやすくなり、ご理解いただける可能性が⾼まります。また、メニューの⼯夫や冷凍⾷品の新商品追加によって、利益率の向上が期待できます」
ハナコは続けて
「値上げ幅は最低限に抑えていますが、利益はそれ以上に残るかもしれません」と付け加えた。
店主は満足そうに頷き、
「津名久さん、ありがとう。これならうまくいきそうだ。よし、頑張るぞ」と⼒強く⾔った。
「話は前後しますが、金融機関さんにお願いする新規融資の申込みの計画についても今回の作戦に盛り込みましょう。計画は私がドラフトを執筆しますので、後ほど確認ください」
ハナコは直近1年分の試算表と3年分の決算書を店主から受け取り、店を後にした。
それから数週間後、店主はハナコの提案通りに値上げを実⾏した。
電気代の⾒直しも行い、割安な契約を結ぶこともできた。
さらにコロナ禍の融資制度を利⽤して、追加融資を受けることにも成功した。
店主の真⾯⽬な⼈柄やリピーターの存在、そして具体的な値上げ作戦が返済可能な体質への変⾰を評価されたのだ。
追加融資が決まったことで、数ヶ⽉間の⾚字キャッシュフローにも耐えられる状況が整った。
店主は、これで安⼼して前向きな営業努⼒ができると息をつくとともに、お⾦があれば時間ができるということを実感し、返済可能な体質への変⾰に⼀層奮闘することを決意した。
お客様への告知は⼿書きのポスターで⾏ったそうだ。今のところ値上げのクレームはないようだ。
また、メニュー表を作成し店内に設置したことで、お客様が他のメニューにも⽬を向けるようになったらしい。
さらに、冷凍⾷品の⾃動販売機に新商品も追加され、売り上げも伸びた。
数ヶ⽉後、店を訪れたハナコと向き合った店主の顔は明るいものだった。
「お陰様で⾚字キャッシュフローが改善されたよ。値上げで客数が少し減ったことは残念だが、売上は微増で利益は⼤きく増えたよ。津名久さんは新人コンサルタントって言ってたけど、大したもんだ。ありがとう」
(よっしゃあああ!) ハナコの鼻の穴が膨らむ。
にやけそうになるのを必死で抑え、少し気取った笑顔で答えた。
「お⼒になれて嬉しいですわ。これからもお店が繁盛するよう、何かあればお気軽にご相談くださいませ」
その瞬間、ハナコお腹がグーっと鳴る。
「……その前に、味噌ラーメンの大盛りをお願いします!!」
こうして、ラーメン店はハナコのアドバイスと店主の努⼒により、ますます繁盛し、地域に根ざした温かいお店として多くの⼈々に愛され続けるのであった。
そしてこの物語は、幸せに包まれた地域の笑顔と共に、これからも続いていくのであった。
おわり